は今でも忘れずにゐます。その時はさうも思ひませんでしたけれども、矢張貴方に向つて手を合せたやうなものだつたんです――だから、そのアンナつていふ人の心持もよくわかりますの……。ね、いゝでせう。是非、一緒に伴れて行つて下さい――」
「でもね……行くのは好いけれどもね。一緒に歩いて、旦那に見られたり何かして、問題になると困るよ」
「私の旦那は、そんな旦那ぢやないの。一緒に歩いてゐるところを見られたつて、怒つたり何かする人ぢやないの――もつと思ひやりの深い人なのよ……。一緒に歩いたつて、三日か四日ぢやありませんか。あとはまたいつ逢はれるかわからないんですもの……大目に見て呉れますの……」
「…………」
三
朝飯も幅《はゞ》で下のレストランに入つて二人並んで食ひ、ホテルのマネイジヤアや番頭などにも平気で話し、あたり前の事でもするやうにして、B達は二人乗の軽快な馬車に乗つて出掛けた。
それでも時子はその前に宅へ電話をかけて来た。「叔母さん心配はしてゐたけれども……何アに構ひやしないのよ。好い叔母ですからね。本当の叔母だつてあんなには行きませんからね。あの叔母がわかつてゐる
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