しなくてはならぬ。飯のよしあし、また飯と平行して、煮だしこぶのよしあし、これを果してどのくらい知っている人があるだろうか?
美食は物知りになることではない。もっともよく使われる、手近な、料理の原料になる、これらのものを正当に知らなくてはならぬ。
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わさびもどこで採《と》れた、どのくらいの大きいものがいい、というようなことは誰でもよく話すことである。だが、どんなわさびおろしで、どんなふうにおろすのか知っている人は、存外|玄人《くろうと》の中にすら少ないものである。
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そういえば、台所道具がどこの家もなっていない。よく切れるいい庖丁《ほうちょう》、大根おろし、わけてもかつおぶしを削る鉋《かんな》のごとき、どれも清潔で、おのおの充分の用に耐えるべき品が用意されていないように思う。
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いいかね、料理は悟ることだよ、拵《こしら》えることではないんだ。名人の料理人というものはみなそれなんだね。
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今日《こんにち》の料理界なんてものは、ほかの世界に較《くら》べたら、底が知れている。料理界には穴があるんだ。あるといえばあるが、しかし、ほんとうの
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