》れる。景色のよいところで食うことが望ましい。叶《かな》わぬまでも、なるべくそういうふうにする心がけが必要である。アパートでも、部屋をよい趣味で整えて食事をする。そういう心掛けが、料理を美味くする秘訣《ひけつ》だ。ただ食うだけというのではなく、美的な雰囲気《ふんいき》にも気を配る。これが結局はまた料理を美味《うま》くする。
 絵でも、書でも、せいぜい趣味の高いものに越したことはない。これまた心の栄養で、人間をつくる上の大切な肥料なんだから。
 料理というと、とかく食べ物だけに捉《とら》われるが、食べ物以外のこれらの美術も人間にとって欠くことの出来ない栄養物なんだから、大いに気を配ることが肝心《かんじん》だ。事実、食事の場合に、生理的にも好《よ》い影響があるようだ。
     *
 僕のところに婦人雑誌の記者などが、なにか料理について話してくれって雑誌の記事をとりに来る。だが、そんなのにいったって、真に分ろうとしないんだから、いったってつまらん。なんでもそうだが、ちょっとおつとめで記事を取りに来る人なんかに、なにを話せるものかって、いつも話しゃしない。書く本人が分らんで、美味なんて記事は
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