を弄し、平地に波瀾をまき起こしたというわけだが、それのみか、また次のような極言を続けて、いよいよ聴者を沸かしてしまった未熟講演の記録を遺している。
「今後のお茶というものは、プロレタリヤの境界にあっては、吾人が過去に聞かされたり、教えられたりした古人の心づくしになるお茶事は、もはや再び真似事さえ成し得られるものではない。味わい得られるものでもない。このことプロの立場からすれば、まことに口惜しい次第ではあるが、貧富の差による名茶器の行く方というものが、限定されてしまった今日、プロ級は富者のみが専有する数々の望ましき茶器茶道具を遠く離れて、昔の響きを聞いている以外に道はない。この現実は今後も長く続くものと想像して、まず間違いはあるまい……。
 かかる理由のもとに、今後のプロは古人の心の高く香るお茶なるものにはすこぶる縁遠いところに立つの他はない。」
 語り終わるかおわらないうちに、異議あり、異議ありの声が聴者におこり、反響すこぶる大なるものあり、弁明大いに務め、相手の得心をかちうるまでには、意外の務力を要した次第であった。

 最初から最後まで名器名幅を購い得ない者は、伝統を守りぬき、これ
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