心され、ついに入手されるまでになった。村人の言によれば社員ふう特派使節がわざわざ美濃|久々利《くぐり》村に足を運ばれること三度、某工人はもとより、瀬戸のT氏を煩《わずら》わすなどずいぶん大がかりの努力であった。これは今でも村の話柄としておもしろく誇張されて遺っている。
翁は最初志野陶土発見を某工人の口から知ったとき、矢も楯もたまらなくただ陶土さえ入手せば即刻にも志野は焼成するものと早合点し、急遽《きゅうきょ》使者を山間に走らせられたのである。ところが純朴な村人の節義は存外堅いものがあって、星岡窯のAの発見と出資によって掘り下げていった洞窟《どうくつ》の陶土、……それは容易に翁の使者の命ずるまま乞《こ》うままには諾するところがなかったらしい。翁は焦慮して幾度か山中に使者を派し、村の役場員を動かし村益をもって交渉に当たらせ、ついに○○○出資を収めて希望の陶土を入手したという汗だく事件があった。
しかも、これが星岡窯のAにも私らにも積極的にことが運ばれたのであった。それはなんのためかはいうまでもなく、最初の行きがかり上、極秘中に策を練って志野、黄瀬戸を作り上げ、某々に目に物見せてくれんと
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