しい。私は約二年ほど前益田|鈍翁《どんのう》に面したときの直話であるが、鈍翁の言葉に、
「君、前山が来て近い中にきっと志野を焼いて持って来るって大|気焔《きえん》だったよ……」
私はとっぴな話を聞かされていささか驚いた。そして思わず不用意にも、これに即答した。
「それは出来ませんなあ……。いかに前山さんだってまた誰だって、それは出来ません。今は、そんなものを作れる人がありませんから……ときにあるいは様子だけが志野みたいな……黄瀬戸みたいなものが出来ないともかぎりませんでしょうが、ともかく、生命力は皆無なものに違いありませんから、一見似ているにしても実際の価値上、なんの美術価値もないものにきまっております。従って問題になるものではありますまい。私は前山さんを評するわけではありませんが、もし直評を許されるならば、前山さんの今の製陶認識では失礼ながら古《いにしえ》を偲ぶに足る、それは決して出来るものではありませんでしょう」
鈍翁は呵々大笑して……。
「そりゃそうだろうね、そうたやすくは出来るもんじゃなかろうね。時代が許さないだろうし、君の言のごとく作者がないだろう。しかし前山は大変な天狗
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