らしく、仁清再現の企図だけは計画いくばくもなくして放擲《ほうてき》せられた……を人から聞き知った。
 この時……この際、翁にして製陶事容易にあらずとし、些細《ささい》な感情と世間に対する意地ずくなどにこだわるところなく、すなおにすべての製陶を断念して決然廃窯され、大きな世界の指導者になっていられるならば、翁の聡明と男性は災いを転じ、よき意味に印象づけられたのであろうが、惜しいことに再び舞台装置を変え、芸題を代え、看板を塗りかえ、再興行に移られたことである。これがまた失敗であった。これまたよき引っ込みのチャンスを逸して遺憾であった。実をいうとこの再興行に際しても、吾人《ごじん》は翁のために同情を繰り返し同時に苦笑を噛み殺したのである。
 さるにしても、今後はまた、さらに登る一層の楼なる見識をもって……製作年代を遡《さかのぼ》り当今流行の黄瀬戸、志野の再製作を計画し、しかして一瀬戸の工人を聘されるに至った。
 前山さんは元来物語を単純に考える人と見え、この際も瀬戸陶工わずかに一人の力でもって、古来著名なる志野、黄瀬戸、織部時代とされている芸術的古陶を、無分別にも一挙生み出さんと夢見られたら
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