カツの寿司など、創意創作がむやみやたらと現われ、江戸前《えどまえ》を誇った勇《いさ》み肌《はだ》の寿司屋など跡を絶たねばならなくなるだろう。サンドイッチの寿司だって本当に現われないとはかぎるまい。飯とパンと同時に賞味できるからだ。戦後十年くらいまでは、京橋、日本橋あたりの目抜《めぬ》きの場所といえば、相当やかましい寿司屋もあり、やかましい食い手もあった。その当時、新橋駅付近に、千成《せんなり》と名乗る嵯峨野《さがの》の料理職人が、度胸《どきょう》よく寿司屋稼業を始め、大衆を相手にして、いつの間にか職人十数人を威勢よく顎《あご》で使って、三流寿司を握り出した。千成はデパートに真似《まね》て寿司食堂を造り、数多くのテーブルを用意し、一人前何ほどと定価のつく皿盛《さらもり》寿司を売り出した。この手は安直《あんちょく》本位なので、世間にパッと拡《ひろ》がってしまった。そして遂には、東京中に寿司食堂が氾濫《はんらん》してしまった。江戸前寿司の誇りを失ったのはこの時からである。
 さて、寿司らしい寿司にはどんな特色があるだろう。寿司らしい寿司というからには、もちろん一流の寿司であって、気の毒ながら
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