だと、茶の熱いうまいやつをよろこんで寿司を味わったものだ。だが、今日このごろの者は、いきなりビールだ酒だと寿司を酒の肴《さかな》に楽しんでいる。寿司食いのアプレである。戦後、寿司が立ち食いから椅子《いす》にかけて食うようになったせいである。この傾向もなかなか勢力があって、上等の寿司屋はおのずから腹の張らない小形寿司を作って、飲ませるように技《わざ》を進め、遂《つい》に一人前の料理屋になったからだ。今一つの新傾向は、女の立ち食い、腰掛《こしかけ》食いが驚くほど増えて来て、男と同じように「わたしはトロがいい」「いや赤貝《あかがい》だ」「うにだ」と生意気《なまいき》をやって、噴飯《ふんぱん》させられることしばしばという次第だ。寿司においては、いちはやく男女同権の世界に歩《ほ》を進めたようだ。
島田髷《しまだまげ》の時代には売物にならなかった御面相《ごめんそう》が、口紅《くちべに》、爪紅《つまべに》、ハイヒールで堂々と寿司通仲間に侵入し、羽振《はぶ》りを利かす時代になってしまった。昔ならほとんど見られなかった風景である。この調子では今にトマトの寿司、コンビーフの寿司、サンドイッチの寿司、トン
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