ために、従来にない客種《きゃくだね》をそろえて寿司王を思わせている。また再興した新富《しんとみ》寿司本店も今までに見られないものを持って臨んでいる。これもまた、寿司王国を示している。こんなふうに寿司屋は体裁《ていさい》ではグングンと万事に改良し進歩を示している。しかし、これが一般向きの店となってはなかなかそうもいかぬ様《よう》である。第一に客種に問題があるのだろう。
以下一々について各店主人の持つ寿司観の長短を俎上《そじょう》に載せて見よう。
終戦後、闇米屋《やみごめや》という女性行商人が大活躍し、取り締まりなどなに恐れるところなく日々東京に入りこんで、チャッカリ商売したものであった。売り込み先は割烹《かっぽう》旅館、特に寿司屋を当てにして新潟・福島・秋田などからたくましくも行商に来ていた。東京では首を長くして持ちこがれているという様子が、彼ら闇屋の目には鋭く映るのだろう。寿司屋を始めようが、料理屋をやろうが、カツギヤにさえ頼めば米に不自由する都会ではなかった。
このころの東京は、見渡すところ寿司屋ばかりの食べ物|横丁《よこちょう》かと思わせるほどの軒並《のきなみ》であった。雨
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