かず》ばかり用いるみっちゃんに旗を挙げていい。
そこで両者の甲乙《こうおつ》を論ずるに当たり、なくては叶《かな》わぬまぐろの場合を注目してみよう。これはみっちゃんの独壇場《どくだんじょう》である。ただ、飯の握《にぎ》り方には遺憾《いかん》な点がみっちゃんにあって、第一大きすぎる恨みがある。久兵衛のは贅沢寿司《ぜいたくずし》として文句なし。握り具合はほどよい特色を有し、酒の肴《さかな》になる寿司である。もし久兵衛がまぐろの選択をさらにさらに厳《げん》にし、切り方を大様《おおよう》に現在の倍くらいに切ったとしたら、それこそ天下無敵であろう。
彼には彼の寿司観があって、結局まぐろはそう大きく切るものではない、という先入観を信念として、魚の切り方には、彼の気骨《きこつ》にも似ず貧弱な切り具合が見られる。
おそらくそれは、彼が幼少育ったみすじ[#「みすじ」に傍点]という寿司屋の影響によるところが大《だい》であると考えられる。このみすじ[#「みすじ」に傍点]という寿司屋は、かつて宮内省《くないしょう》等への出前、何百人という出前を扱った寿司屋であるというから、名人芸を云々《うんぬん》するより
前へ
次へ
全23ページ中18ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
北大路 魯山人 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング