ともいえる。
 店つきの風格、諸道具、材料および原料、衛生設備、その他職人、女中にしても一流好みを狙《ねら》い、すべてが金のかかった業態《ぎょうたい》をして、さあいかがと待ちかまえているかいないかがうまい寿司、まずい寿司、安い寿司、高い寿司のわかれ目である。
 ところで、かような高級|道楽《どうらく》食いの店を、新橋|界隈《かいわい》に求めていったい何軒あるだろうか。もちろん立ち食いそのままの体《てい》でよくできている店というならば、何軒でもあるにはあるが、実際には“羊頭《ようとう》を掲げて狗肉《くにく》を売る”たぐいが大部分である。殊《こと》に近ごろ流行の、硝子《がらす》囲いに材料を山と盛り、お客さんいらっしゃいと待ちかまえているような大多数の店は、A級寿司屋とはいい難《がた》い。
 さしずめ新橋あたりを例に、私の趣味に合格する店は二、三軒であろう。その一軒に近ごろ立ち上がった「新富《しんとみ》本店」および終戦後ただちに店開きした「新富支店」がある。この本店はその昔、意気軒昂《いきけんこう》で名を成した名人寿司として有名なものであったが、キリンも老いてはの例にもれず、ついに充分の生気
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