番雷の鳴らぬところへ建ててそこから東京へ通勤しようと考えた。
 雷の鳴りそうな日は、社長は御欠勤になって、その安全地帯の自宅で、悠然と読書にシャレ込もうという寸法であった。ノコノコと中央気象台まで出かけて行って、一体東京近辺では、どこが雷が鳴らないでしょうね? と、尋ねたことがある。途方もないバカなことを、聞きに来た男を迷惑がりもせずに、若い二人の技手が、――今なら技官というところであろうが、親切に応待してくれた。
 なるほど、気象台には、こういう調べがついているんだなと、感心したことであったが、長さ二尺、幅一尺ぐらいの、大きな図表を十五、六枚も持ち出して来、私のために調べてくれた。それには一枚一枚に日本地図が印刷されてあって、その上に波のように青い線が、ビッシリと一杯に彩られてある。一月に三十回以上雷の鳴るところ、十回以上鳴るところ、五回以上鳴るところといった風に、細かな統計が取ってあった。
「比較的、雷の鳴らないところというお望みなら、海岸へ住むんですな。東京近辺では、逗子《ずし》、葉山《はやま》。千葉県では内房《うちぼう》地方、……その辺が、月五回の部分に当りますから、一番雷が尠
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