《すくな》いわけですね。絶対鳴らないところ? そんなところは、日本中探したって、ありゃしませんよ。樺太《からふと》には、一カ所そういうところもありますが、その代りそこは、冬雪の降ってる最中に、鳴りますよ。まさか樺太から、東京へ通勤もできんでしょう?」
と、その若い技官は件《くだん》の図表を調べてくれながら、私を冷やかした。
房州よりは、湘南《しょうなん》という方が、何か聞こえが明るいから両方同じくらいの程度に雷の尠いところなら、ようし逗子へ家を建てようと、私は考えた。そして家を建てるなら、まずその土地になじんでおかぬといけんから、今年の夏は家中で逗子へ避暑だと私は、勇み立った。妻と女中に二人の子供、私を入れて総勢五人、桜山の葉山へ抜けるトンネル入り口近くの農家の二階|二間《ふたま》を、一夏借りたのであったが、何が月に五回のところも、海岸地方もクソもあるものか!
鳴ったにも、鳴ったにも! 行った晩から東京と変りなく、鳴り轟《とどろ》いた。中央気象台のクソ野郎! 人にウソを吐《つ》きやがって! と私は、頭から湯煙りを立てた。
そして挙句の果てに、気絶せんばかりに、大鳴りに鳴り轟《と
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