どろ》いたのは、昭和何年だったか、もう今では年も忘れてしまったが、あんまり恐ろしかったから、月と日だけは今でも忘れることができぬ。七月三十一日の、晩であった。ガラガラバリバリゴロゴロズシンとのべつ幕なしに地鳴り震動して、私はもう、死んだ方がいいと、往生観念したくらいであった。
 妻も女中も、雷なんぞ、鵜《う》の毛で突いたほども、感じてはおらぬ。子供二人はグウグウと、高鼾《たかいびき》で眠っている。私一人が、パッパッと往来が真昼のごとくに明るくなるたんびに、眼を閉じ耳を塞《ふさ》ぎ心臓を破れんばかりに、ドキつかせた。到頭|堪《たま》らなくなって、妻と女中に笑われ笑われ、階下へ逃げ込んだ。入れて下さい! とばかりに、お百姓夫婦の眠っている、破れ蚊帳《がや》の中へ、飛び込んだ。お百姓は素《す》っ裸体《ぱだか》で、フンドシ一つで眠っている。その廻りに、黒ん坊みたいな子供が四人、ウジャウジャと寝て、その向うに腰巻一つの内儀《おかみ》さんが、肥《ふと》った尻《しり》をこっちへ向けている。
 寝るところも、横になるところも、ありはせん。そのないところを私は、無理に亭主の尻っぺたのあたりに割り込んで、
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