シャギたくなるのは、何も人間だけとは限らねえもんだな! と、つくづくそう感じたことである。

      電車で逃げる

 今では、もう観念したのと、年を取って、逃げ出すのが億劫《おっくう》なもんだから、夕立ちになっても、死んだ気で、家《うち》にじいっとしているが、ここまで精神修行をするには、随分私も苦労したものであった。
 以前は、一天《いってん》俄《にわか》に掻《か》き曇って、ゴロゴロゴロゴロ鳴り出すと、とてもじっとして、家になんぞ、落ちついていられるもんではない。大急ぎで着物を着換えて停車場へ駈けつける。省線電車に乗って雷の来ない方へ逃避をやらかして、我が家の方の夕立ちが済んだ頃を見計らって、晴れ上がった西の空に、七色の虹《にじ》を望みながら、悠然と御帰館相成ろうという寸法であったが、問屋がそう旨《うま》く卸してくれぬことがあって、一度|酷《ひで》え目に遭ったことがある。
 西南はるかな空がかき曇って、ドロンドロンドロドロということになったから、例のごとく停車場へ急いだと思いな。何でも高円寺に住んでいた頃であったが、中野、東中野、大久保と、電車の行く先もって天地|晦冥《かいめい》
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