カの強いことも、また無類である。
 どんな大きな犬と噛《か》み合いをやっても、まだ一回たりとも、音《ね》を挙げたためしがない。負けても、相手に食いついたっ切り離れないのだから、抛《うっちゃ》っとけば、命のほどが危ない。こっちが青くなって、必死に引き分けてやるほど、気性の敢為な獰猛《どうもう》極まる奴であるが、このデカ先生もまた、生得、雷様がお嫌いらしく思われる。ピカピカとくると、たちまち犬舎を飛び出して、どっかへ姿を晦《くら》ましてしまう。
 夕立ちが済むと、ノコノコと、どこからか現れてきて尻《し》っ尾《ぽ》をふったりジャレついたり、ハシャギ廻るのであるが、どこへ行くのか、初めのうちはなかなかわからなかった。が、最近、やっとわかったのは、このデカ氏はピカピカゴロゴロの間中、光の届かぬ椽《たるき》の下の一番奥の方に身を潜め、息を殺しているわけなのであった。
 なるほど、弱将の下[#「弱将の下」に傍点]、勇卒なし[#「勇卒なし」に傍点]とは、よくいったもんだ! としみじみ感じたのであるが、こいつもやはり、雷様のお通りになった後は、爽涼感と蘇生と二重の喜びを、感じるらしい。恐怖の去った後でハ
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