して黙然《もくねん》と死んだようにヒシ固まっていたオヤジが、急に気も軽々とハシャギ出すのは、よほど滑稽《こっけい》なのであろう。
 雷が済んだから、お父さん、吻っとしたろう? なんて子供から冷やかされる。子供も五つ、六つ、七つ、八つくらいまでは何とかゴマカス手もあるが、もう二十歳《はたち》、二十一となってはゴマカシても、とてもおっつくものではない。
「お父さんは、子供の時分に、お前たちのお祖母《ばあ》さんが、あんまり雷を怖がったもんだから、それがお父さんにまで、伝染して、もうどうにも直らんよ! お前たちはお父さんみたいに、なってはいけない! 雷を怖がるのは、お父さんだけにして、お前たちは怖いものなしに、のんびりと、大きくなるんだぞ!」
 と、仕方がないから雷の時だけは、オヤジの威厳を棄てて、私は子供たちと、友達づき合いをする。
 有難いことに、ふだん私は、子供に呶鳴《どな》ったこともなければ子供に説教したこともなく、子供と友達みたいにして遊んでるもんだから、雷に首を竦《すく》めていたからとて、子供たちはこのオヤジを、そう馬鹿にしてる様子もない。癇癪《かんしゃく》持ちの一方ならぬ、ガムシ
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