るが、上《うわ》の空だ。一切の思念がことごとく雷にばかりいってしまう。ピカッと光るたんびに、五体が竦《すく》む。ハッとしどおしで、眼を閉じてみたり、胆《きも》を冷やしたり、鳴り始めてから鳴り終るまで、雷《らい》さまのことばかり、考えている。
今のは、どの辺で鳴ったのかな? もう、頭の上へ、戻ってきたんだろうな? 今のは光ってから口の中で、十勘定してから鳴ったから、大分遠のいたか知れん? なぞと夢中で考えてるから、人から何か聞かれても、トンチンカンな返事ばかりする。夕立ちが済むと、私はもう芯《しん》が疲れて、グッタリして、道の十里も歩いたほどに、へとへとになる。
そのくせ、雨雲が切れて、陽《ひ》の光が、さっと樹間《このま》から洩《も》れて、音が大分遠のいた頃から、無暗《むやみ》やたらと、精神が爽やかになって、年甲斐《としがい》もなく、ハシャギたくなる。今日はまあ、これで救われたと思うと重荷を下ろしたように吻《ほ》っとして……、夕立ちがきて涼しくなったのと、雷から解放されて蘇生した喜びとで、人の知らぬ二重の爽快感を、私だけは味わっているわけなのであるが、今まで憂鬱《ゆううつ》千万な顔を
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