ン! バリバリバリバリババーン! と頭の上ではなく、空の横ッチョあたりのところから紫色の火花を散らして、釣瓶《つるべ》打ちにして雷撃してくる。もう一つ酷いのが、軽井沢、そして信州の山岳地帯。上州や信州では、毎夏必ず五人や十人は雷のために死人が出る。だから私は、自分の故郷でありながら、上州や軽井沢の方へは、絶対に足を向けないのだ。あんなところに住んでる人の気持が知れん! とある時私は、以上のような話を、ある小説家にしたことがある、と思ってくれ。
「驚いたね、これは!」
 とその小説家先生が腹を抱えたから、雷学の私の蘊蓄《うんちく》のほどに驚嘆したか? と思いの外《ほか》、
「君は小説家だと思ったら、これは驚いた。雷専門の、雑学者だね。私設雷専門取調委員長ってところだね……つまり……ソノ……臆病なんだな」
 と吐《ぬか》したには、腹が立った。以来私は、この小説家とは道で逢っても、口もきかん。
 ともかく何と笑われても私は雷が怖くて、恐ろしくて仕方がない。雷を嫌悪し憎悪し、恐怖し、呪詛《じゅそ》し、戦慄《せんりつ》するもの私のごときはないであろう。そしてこれをもってこれを観れば、私という人間
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