箋《しょかんせん》三枚に亘《わた》ってビッシリ一杯と、当地ではいつ雷が鳴って、どんな具合に自分がビックリ仰天して、どんな具合に平気であったかということを仔細に書いてよこしたが、困ったことに全文|西班牙《エスパニア》語であったから、私にはちんぷんかんぷん読めん。
 ラッソーさんという、西班牙語のわかる、商大の先生が遊びに来たから珈琲《コーヒー》をふるまって読んでもらったが、読めども読めども尽くるところなき雷の日記には、ラッソーさんは呆《あき》れ返ってしまって、このモンテヴィデオの手紙の主は、何だ? と聞くから日本の医療器械《サージカルイクイプメント》の輸入商人だと答えたら、
「|なんて狂人《ホワツ ア クレージイ》野郎だ! ピンからキリまで雷のことばかり書いてやがる」
 と目を廻してせっかくの親切な相手を、莫迦《ばか》扱いしてしまった。
 その西班牙語の手紙の中で、今でも覚えてるのは、ここに特筆して御報いたしたきは、
「数年前、小生は智利《チリー》アリカ北方の砂漠を旅行中、三度も烈《はげ》しき雷鳴の轟《とどろ》き渡るを聞けり」
 という一節であった。砂漠というところは、雨が降らねえからカ
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