[#地から2字上げ]橘商会拝
てなわけなのであるが、十銭切手を貼《は》ると、世界中どこでも、郵便の行く時代であったから、私はこれを至るところへ飛ばせてくれた。印度《インド》から注文《オーダー》が来ても、タイから引合いが来ても、平気の平左で「雷の話」という本を、一心に読み耽《ふけ》っている社長が、気が狂ったように雷の問合せばかり全世界に発送しているのであったから、タイピストはクスクス笑いを怺《こら》えているし、こういう問合せを貰《もら》った外国の商館でも、さぞかし面食らったことであろう。
なんだ俺の取引相手は、日本の貿易屋じゃなくて、気象台だったのか? と、眼を廻したかも知れぬ。が、外国人のことだから百本くらい出したのに、十五、六本ぐらいは、律義に返事をよこしたように、覚えている。前にも言ったように、何のためにそんな問合せを出したのやら、雷が鳴らないところがあったら、そこへ移住しようという肚《はら》があったわけでもないし、手紙を出した当の本人に、出したわけがわからんのだから返事などももちろんもう忘れてしまったが、今でも覚えてるやつだけを二つ三つ並べてみようか。
ヴェネズエラ、カラカ
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