スボンは?」
「葡萄牙《ポルツガル》ハ、ワタシ行ッタコトナイカラ、少シモ知ラナイ。西班牙デ、一番酷カッタノハ、カステイルノ高原……」
「智利のサンティアゴは?」
「娘ダッタカラ、ワカラナイ!」
「ヴァルパライソは?」
「オウ、テリブル!」
 と女は笑ったが、ヴァルパライソの雷がテリブルなのか、その時バリバリと、頭上で炸裂《さくれつ》した野尻湖の雷に、テリブルと顔をしかめたのか、そこのところは定かでない。
 これもちょうど、その頃であった。なぜ、そんなことをしてみたのか? 自分でもその気持がサッパリわからないが、御苦労千万にも私は、私のところへ|引合い《インクワイリ》をよこした海外の商館や、取引先へ宛てて、雷のことを問い合わせてやったことがある。甚だ恐れ入り候えども、当商会は雷のことについて非常なる興味を有し居《お》り候間、左記御返事下され候はば、有難き仕合せに御座候、とか何とか書いて、無暗《むやみ》やたらに出した覚えがある。
 一つ、御地では夏、雷が大変屡々《ベリーオッフン》に鳴るや?
 二つ、かなり烈《はげ》しく鳴るや?
[#地から5字上げ]|貴下に忠信なる《フェイスフリーユアズ》

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