カげたことが書いてある。若い女房が、たった一人で留守番をしてるところへ、ピカリゴロゴロ……ちょっくら、雨宿りを、さしておくんなさい! とはいって来た途端に、ピカッときて若い男に、アレエとばかり女房は縋《すが》りつく。しっぽり濡れて、二人は割なき仲となりにけりというのであるが、そんなバカげた話があって堪《たま》るものか! と私は考えていた。
 私のような雷嫌いには、およそこれは、想像もつかぬ光景である。アレエ! と縋りつく方は、よろしい。これは、あり得ることである。私だって、縋りつくであろう。問題は、縋りつかれた男の方の、出方であった。ゴロゴロピカピカの真っ最中に、いくら艶《なまめ》かしく縋りつかれたからとてそんな恐怖のタダ中で、味な気なぞが起るものか! そんなバカをしたら、恐怖とアレが入り交じって、心臓が麻痺《まひ》してしまうであろう。ゴロピカの最中は、二人でただ抱き合っていて、やがて、西の空が明るくなって、ゴロゴロが遠のいて、初めて人心地がついてから、抱き合ったが百年目とばかりに、そろそろ心臓がアレの方に向うのが、本当であろうというのが、私の意見であった。難しくいうと「古物語《こもの
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