たが、その日はとても蒸し暑い日でした。いくら暑くても、まだ六月半ばですから、水が恋しくなるというほどでもありません。が、それでもいよいよお別れだというので、娘たちはどうしても例の、ウォーターシュートを実験して見せなくては、気が済まなかったのでしょう。
 六蔵にいい付けて、到頭水門の扉を全部あけさせてしまいました。そして奔流のように流れ出てくる水の上へ、波乗り板と同じくらいの大きな板をうかべさせて、私にもぜひ乗ってみろ乗ってみろ! と勧めるのです。絶対に危険はないというのですが、逆巻く矢のようなこの急流を見ると、さすがに尻《しり》ごまずにはいられません。
「じゃ、わたし、やってみるわ!」とお侠《きゃん》なスパセニアがまず、上衣《うわぎ》を脱ぎ始めました。誘われてジーナも笑いながら、無言で上衣を脱ぎ始めるのです。私には溝渠《インクライン》の傍らの道を下《くだ》って一キロばかり下の第一の曲り角のところまでいって欲しい、そこで止《や》めて岸へ上がって、一緒にまたこの道を戻って来ようというのです。
 承知して私は道を下り始めましたが、姉妹《きょうだい》は湖でボートでも漕《こ》ぎながら私が曲り角近
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