ろうから、お帰りになるのも已むを得ぬ。その代り、夏休みになったらまたぜひ、遊びに来ていただいたらいいじゃないか……という父親の言葉に、不承不承承知して、途中まで送って来てくれることになったのです」
「それで、お帰りになったというわけですね?」と、私がうなずいた。
「そうなんです。……それで娘たちは、大野木まで送って来てくれたのですが……」
 と、いいかけて、病青年は言葉を切った。
「そう、そう……一つ、いい残していることがありました。どうしても忘れられないのは、その発《た》つ前の日に……そのことも、もう一つ、申上げておきましょう」

      七

 その父親からの手紙が来て、いよいよ帰ると決まったら、娘たちはやいやいいいましたが、結局父親が言葉を挿《はさ》んで今いったとおり、帰ることにしました。が、それにしてもそう決まったら、もう一日だけ遊んでって下さいというわけで、中一日おいた明後日《あさって》の朝早く帰ることに決めました。
 そしてその翌《あく》る日は、いよいよ今日がお名残の日というので、また岬から工事場の跡、湖の畔《ほとり》まで姉妹《きょうだい》と連れ立って、遊びに出かけまし
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