の性格をよく知っていますから、知り合いになったこの家に、ジーナとスパセニアという、妙齢《としごろ》の美しい娘がいるということなぞは、絶対に洩《も》らしてはいません。親の安心するように、家《うち》の立派なことや景色のすばらしいこと、そして主人が外国帰りの教養のある鉱山技師だというようなことばかりを並べたてていたのです。
 が、それでも私の帰京が遅れれば、迎えを出すという騒ぎです。また実際、二十幾つになる息子に迎えもよこしかねない、子煩悩《こぼんのう》な親なのです。そしてその迎えでも来て、ここに混血児《あいのこ》の娘たちがいて、それが今まで私の足を釘付《くぎづ》けにしていたのだということなぞがわかったら、家中でどんな騒ぎを起さぬとも限りません。私は父の手紙を受け取って初めて、楽しい夢幻の世界から、また現実の儘《まま》ならぬ世界へ、引き戻されたような気になりました。ともかくその手紙を見せて名残は惜しいが一先《ひとま》ず帰京することに決めました。ジーナもスパセニアももうしばらくいらっしゃい……もうちょっとと引き留めて已《や》みませんでしたが、そういうわけなら親御《おやご》さんも心配しておいでだ
前へ 次へ
全199ページ中97ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
橘 外男 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング