話し始めた。
「私には、ジーナにも突っ込んだことがいえなければ、スパセニアにもそれ以上のことが、何にもいえなかったのです。ですからジーナもスパセニアも、あるいは私の態度が不満だったかも知れませんが、しかしその時は別段そういう素振りも見えませんでした。
 そして私だけのつもりでは、姉妹《きょうだい》と相変らず楽しい日を送っていたつもりでしたが、そうしてまたも四日ばかりもうかうかと送って、私がこの家へ来てから都合十三日ばかりも、日がたった頃のことのように思われます。
 その時分に、大野木までいった水番の六蔵が、父からの手紙を齎《もたら》してきました。スグに帰って来いという文面です。ほんの七、八日、長くても十日ぐらいのつもりで家を出て、母も心配し切っているし、そうそう学校を休んで遊んでいるというのも、ふだんのお前にも似合《につか》わしからぬこと。ともかくこの手紙を見次第、スグに帰って来い。もし何だったらこちらから、迎えを出してもいい。お前の御世話になっている石橋さんというお宅へは、ほんの心ばかりの品をお送りしておいた。よろしくお礼をいって、スグに帰って来なさい。
 という手紙です。私は父や母
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