抜いて、我儘《わがまま》なくせに人一倍気が弱くて優柔不断な私には、もうそれ以上に踏み出すことが、どうしてもできなかったのです。そのくせ、自分ながら物足らぬ自分の性格に腹が立って、ぼんやりと突っ立っていたのです。
 そして私は一体、スパセニアが好きなのかジーナの方が好きなのか? またもやわからなくなってきましたが、今思えばもしあの時、もっともっと突っ込んで、私が自分の意志を表明してさえいたら、あるいはこんな惨劇も起らなかったのではなかろうか、という気がしてなりません。それを考えて、すべてのことは、みんな私自身の煮え切らぬ性格から招いた罪のような気がして悔まれてならないのです。

 と病人は昔のことを思い出したのか、苦しげに言葉を切った。
「お疲れならば、しばらくお休みになったらどうですか?」と私は勧めた。
「また後で伺った方が、よくありませんか?」
「いいえ、かまわないのです、どうせ同じことですから」と、病人はいった。
「じゃ、ちょっと、枕の具合だけ、直してもらいますから。……松下さん、ここを……」
 看護婦が、枕の具合を直す。
「ともかくそういうわけで……」
 と病人はまたボソボソと、
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