伝わりませんで…」
「…………」
もっと気の利《き》いた使いが来て、事情さえわかればこんな酷《ひど》くならないうちに、来たものを! と再び後悔した。
「看護婦に頼んで、お手紙も差上げましたが……それも伝わらなくて……でも……よく来て下さいました。ほんとに何と……お礼を申上げて……よろしいやら……」
疲れるとみえて、言葉を切っている。話をしても差し支えないかと聞いたら、どうぞ! という看護婦の返事であった。看護婦二人が気を利《き》かせて、隣の部屋へ退《しりぞ》く。
「もう……わたくしも……そう長い命ではありません。……昨日も母が……しておきたいことがあったら、何でもして上げるから……遠慮なくおいい! といいますので……先生のことを話しましたら……今日早速……いってくれまして……」
「御事情を、存ぜぬものですから……御病気ならお直りになってから、御用を手紙で仰《おっ》しゃって下さったらよろしいと、その時は失礼なことを申上げました。しかし、今日、お母様にお眼にかかって、御事情もよくわかりました。こんなことなら、もっと早くに伺って、私のできることは何なりと、いたして差上げればよかったと、後
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