に楽しい夢を破られたような気がしたのは、事実です。が、日が過ぎるにつれて、優しくて濃艶《のうえん》な姉もいいけれど……もちろん堪《たま》らなく魅惑的ですけれど、勝気で気品の高い妹の眸鼻《めはな》立ちの清らかさにも、たとえようなく心が惹《ひ》かれてくるのです。
結局、正直なところどっちがほんとうに好きなのだか、私にも見当がつかなくなってしまいました。ですから、もし、強《し》いて無理に決めろといわれれは、欲ばっているようですけれど――先生、貴方は困った男だとお思いになるかも知れませんけれど、二人とも! と答えずにはいられなくなってくるのです。
朝早くジーナが、栗毛のプルーストを飛ばせて大野木まで、買い物にいったことがありました。その時私は二階の部屋で、友達へ出す手紙を書いていました。お邪魔じゃありません? と声をかけて、スパセニアが切ったばかりのカーネーションやアイリスや、薔薇の花なぞを持って上がって来たのです。枕許《まくらもと》の花瓶に生けて、壁や柱の花筒《はなづつ》に挿《さ》して、
「ここから眺《なが》めると、海が広くて、気持が晴れ晴れするでしょう?」
と縁側に佇《たたず》んで、
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