海へ眸《め》を投げていました。その恍惚《うっとり》と眺めている、キリッと引き締まった横顔や恰好《かっこう》のいい鼻、愛らしく結んだ唇なぞを眺めているうちに……クッキリと盛り上がった胸や柔らかな腰の線に見惚《みと》れて思わず手紙を書く手をやすめてしまいました。ふと気が付いてスパセニアは、振り返ってにっこりと靨《えくぼ》をうかべましたが、欄干《てすり》にからだを凭《もた》せて、悪戯《いたずら》っぽそうに、聞いてくるのです。
「覚えていらっしゃる? こないだ溝渠《インクライン》を見にいらした時に、……わたし、ほら! 六蔵を探しにいったことがあったでしょう?」
「……そう……」と私はうなずきました。
「岸に腰かけて……木の幹に腰かけて、ジーナと随分長いこと、話してらっしゃったわね? ……何のお話、なさってらしたの?」
「何の話ってことも、ないですけれど……」
あの時、もうちょっとのことで、ジーナの手を握りかかったことを思い出して、私は赧《あか》くなりました。
「貴方《あなた》は、知ってたんですか……?」
「どうしても六蔵が見つからないから、諦《あきら》めて戻ろうとしたら、お話してらっしゃった
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