日ばかりを、夢のように暮してしまいました。
 私はこの話の初めの方で、この家《うち》はまるで千一夜物語《アラビヤン・ナイト》の中の、迷路に呼び込まれた荷担《にかつ》ぎのような気がすると、申上げたような気がします。こうして遊んでいるうちに、そういう夢幻感は消え失《う》せてしまいましたが、その代り今度襲うてきたのは日本の昔話にある、浦島太郎の物語でした。昔、浦島太郎は助けた亀に乗って、竜宮城へいって乙姫《おとひめ》様に歓待されるまま、そこで何日かを遊び暮して元の浜へ帰って来た時には、白髪《しらが》の翁《おきな》になっていたといいますが、今の私の場合にも、何かそんな気がしてならないのです。しかも、そういう気がする一方、もしそうならそれでも仕方がないと、度胸を決めていました。ともかく、日一日と私はこの二人に惹《ひ》き付けられて――二人というよりも、この二人の住んでいる世界にといった方がいいかも知れません。その世界の中に溶けこんでしまって、どうしても一思いにここを離れ去ることができなくなってしまったのです。
 馬丁《べっとう》の福次郎や水番の六蔵や農夫たちが、二日おき三日おきに大野木へいった時に
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