わせましたから、居心地のいいに任せてこうして、無遠慮に御厄介になっていて申訳ないと謝りますと、いやいやそのお礼は、私の方からこそと、父親は丁寧な調子でいうのです。
 こんなところで何のおかまいもできないと、自分は忙しくて碌々《ろくろく》お相手もできないが、貴方《あなた》がおいでになって二人の娘が、どんなに喜んでるかわからない。あんなに二人が楽しそうな様子をしているのは、戦争以来初めてといっていいかも知れぬ。差し支えなかったら、幾日でもどうぞ、ゆっくり滞在していって欲しいというのです。娘たちの楽しげな様子を見ているほど、父親としてうれしいことはないのだからと、言葉を添えました。
 そして、明日《あした》から山のことで自分はちょっと、長崎の鉱務署まで出かけなければならないが、そのついでに二、三人調査に連れて来なければならぬ人もあるので、四、五日留守をするが、その間もし遊んでいってもらえるなら娘たちもどんなに心強いか知れないというのです。初めて来て、どこの馬の骨だかわからない人間が、お留守に遊んでいって大丈夫でしょうか? と聞いてみましたら、わたしは何の取り柄《え》もない人間だが、どんな人か
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