物好きとみえて、そして書物だけがこの淋《さび》しい生活の、唯一の友達とみえて、ユーゴの書物もあれば仏蘭西《フランス》の書物もあり……一歩戸外に出れば、荒涼落莫《こうりょうらくばく》たる無人の高原でありながら、部屋の中にいさえすれば、東|欧羅巴《ヨーロッパ》文化の唯中《ただなか》に佇《たたず》んでいるような、錯雑した気持を覚えたことを、今に忘れることができません。
ジーナに呼ばれて、リューマチに効くという温泉に入ったり、湯上がりの生き返った気持で芝生に佇んだスパセニアや、ユーゴの人形を抱いたジーナ、そして薔薇《ばら》に埋もれたスパセニアなぞの、五、六枚の写真を撮りましたが、私はその後二年ばかりたって竦然《ぞっ》とするような事件のために、身震いしてこれらの写真をことごとく燃やしてしまいました。
今この写真さえあれば、貴方《あなた》にも御自身の眼で見ていただいて、私の話も信じていただけるのに! とつくづく残念な気がしてならないのです。
六
パパも喜んでますのよ、とジーナはいいましたが、その言葉に偽りはありませんでした。翌《あく》る日、二、三日ぶりで私は父親と居間で顔を合
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