致の温泉遊覧地になったに違いないのに! と、それを他人事《ひとごと》ならず残念に思わずにもいられなかったのでした。
私はもちろんジーナの勧めに従ってもう二、三日滞在することに料簡《りょうけん》を決めてしまいましたが、散歩から帰って来ると、パパのお部屋も見せて上げましょうか? とスパセニアが、初めて東|端《はず》れにある父親の書斎を見せてくれました。もちろん、父親はまだ帰っていませんが、広々とした四周の壁を埋めている、何千巻という金色|燦爛《さんらん》たる書物! なるほど大学出の鉱山技師だけあって、その夥《おびただ》しい蔵書にも眼を奪われずにはいられませんが、いずれもユーゴや仏蘭西《フランス》の書物ばかりとみえて、私なぞには一冊たりとも表題すら読めるものではありません。
大体ユーゴの言葉はブルガリアなぞと同じく露西亜《ロシア》語と同語源のスラヴ語だというのでしたが、そのスラヴ語が私にはわからないのだから、仕方ありません。父親の部屋が済んで次はジーナの部屋……スパセニアの部屋……いずれも若い娘たちの部屋らしく、日本の人形やユーゴの郷土人形なぞを飾って、こぢんまりと居心地よく、父親同様書
前へ
次へ
全199ページ中82ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
橘 外男 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング