う、何度彼女の手に触れようとして、背《せな》へ手を回そうとして、そのたんびに胸を轟《とどろ》かせていたか、知れないのです。そしてこの時ほど私はスパセニアが帰って来なければいいと、思ったことはありません。
からだ中が燃えるようにかっかとして、顔が火照《ほて》って頭が茫《ぼう》っとして、こうしていても躍り出したくなる無性に楽しいような気がしてきますけれど、それでいて彼女と膝が触れ合っていることが、また堪えられなく全身をムズ痒《がゆ》くさせてくるような……この時ほどスパセニアが帰って来てくれなければいいと、肚《はら》の中で思っていたことはないのです。
「お差し支えなかったら……もっと、遊んでらっしゃいません? こんな山の中ですから、面白いことなんぞ何にもありませんけれど……」
艶《あで》やかな眸《め》が、にっこりとのぞきこんできます。
「スパセニアも、とても喜んでますし……パパも喜んでますのよ。ね、およろしいでしょう? もっと遊んでいって下さいません?」
「僕は……僕は……かまいませんけれど……でも……そんなに遊んでて、お宅に御迷惑じゃないでしょうか……?」喉《のど》が掠《かす》れて、他
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