頼る人は、やっぱりユーゴのお祖父様や、叔父様叔母様のほかにはないって、いいましたの」
 と、もっともっと、淋しそうな顔をしているのです。
「もともと父は、帰りっ切りに日本へ帰るつもりはなかったのです。せっかく帰って来たのだから、三、四年くらいいてまたユーゴへ戻ろうって! ……そして二、三年おきにユーゴと日本をいったり来たりするつもりでいましたの。ですから初めはこの家もこんなところへ住むつもりではなくて、ホテルを作るのに、父が出入りに不自由なもんですから、ほんの夏場の別荘のつもりで、建てただけなんですの。温泉が湧《わ》くものですから、やがてユーゴへ帰ったら、また祖父をつれて遊びに来るつもりで……」
「ほうここに、温泉が湧くんですか?」
「お気づきになりませんでして……?」
 とジーナがおかしそうにほほえみました。
「昨日お入りになったの、あれ、温泉ですのよ」
 いわれてみれば、私にも思い当るところがあります。西洋人やあちら帰りの人の風呂《ふろ》といえば、日本人の大嫌いな西洋風呂なのですが、ここの家の風呂だけはゆったりと大きくて、窓の色|硝子《ガラス》や広い洗い場や、おまけにタイルの浴槽《
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