たくしは女学部へ。故国《くに》では英語は一切使いませんけれど、仏蘭西語は子供の時から習ってましたから、この学校が都合がよろしかったのです。
そして二年ばかりは、ほんとうに楽しく暮していましたでしょう……家も大きいし、女中たちも大勢いましたし……自家用車もありましたし……初めは言葉がちゃんぽんになって日本の友達たちに笑われていましたけれど、そのうち日本語も困らぬようになりました。
……今思えば、その頃にユーゴへ帰ってしまえば、こんな苦しい目にも遭わなかったのかも知れませんけれど。でもまさかこんなに早く、戦争になろうとは夢にも思いませんでしたし……」
とジーナは、淋《さび》しそうな眼をしているのです。
「そして、平戸のお祖父《じい》さんお祖母《ばあ》さんに、逢わなかったんですか?」
と聞いてみましたら、
「もうみんな亡くなって……ただ叔父と叔母だけが住んでたそうですけれど……面白くないことがあったとみえて、父は愚痴っぽいことはいいませんけれど、お金だけ上げて、さっさと帰って来てしまいましたの。
お前たちを、食い物にするような人たちだから、決して近づいてはいけないって……お前たちの
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