それもすでにやって、今では右の胸に肋骨はほとんどない、という話であった。
「どんなことをしましても、もう当人に、それだけの寿命しか、ないんでございましょうねえ。ほんの、気胸《ききょう》だけで丈夫になってらっしゃる方も沢山おありになりますのに……」
いつか車は、冠木門《かぶきもん》の大きな邸内《やしきうち》へ入って砂利を敷いたなだらかな傾斜を登っている。気が付いたことは、こんな大きな邸に住んでいるひとり息子では、私のような素人が清瀬村や肋骨を切る話なぞを、持ち出すまでもなく、あらゆる療法は、ことごとく試み尽しているであろうということであった。内玄関もあれば、車寄せの大玄関もある幽邃《ゆうすい》な庭園が紫折《しお》り戸《ど》の向うに、広々と開けている。車が玄関へ滑り込むと、並んでいた大勢の女中が一斉に小腰《こごし》を屈《かが》める。
「早速先生が、お訪ね下さいましたよ、わざわざ御一緒に……」
と婦人に声をかけられて、女中頭《じょちゅうがしら》らしい四十年配の婦人が、
「まあ、……恐れ入ります、若旦那《わかだんな》様が、さぞお喜びでございましょう」
と一際丁寧に、迎えてくれた。磨き込ん
前へ
次へ
全199ページ中7ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
橘 外男 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング