助けることになったというのです。
「その鉱山主がドラーゲ・マルコヴィッチといって、わたくしたちの祖父……長女というのが、母ですわ。でも、祖父の鉱山といったところで、そう大きな銅山ではありませんのよ。その時分は、三流四流の小さな銅山だったということですけれど、結婚して一心に祖父を助けて、二十年ばかりのうちに父の努力一つで、銅山は採量が増して、今ではユーゴ国内で一、二を争う産出額を持つようになりましたの。そのほかに、銀山の大きなのを一つと、クロアティアのマイダンペックに、モリブデンの鉱山まで、持てるようになりましたの」
鉱山主の長女である姉妹《きょうだい》の母親は、スパセニアが生まれると間もなく世を去って、姉妹とも母の味というものを、ほとんど知らないというのです。物心ついてからは、ただ父親の慈愛一つに育《はぐく》まれて、その時分姉妹の住んでいた本邸は、首府のベルグラード郊外、そこで三十人近くの召使に侍《かしず》かれて、別邸は銅山の所在地のゼニツアの町に一つと、ボスニア・ヘルツェゴビナ州のサライエボという美しい都会にも、避暑用として一つ……。
ユーゴの銅山王マルコヴィッチの孫娘と呼ばれて
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