っちへ逃げこっちへ逃げして、言語に絶する辛酸を舐《な》め尽しました。それでも翌年の春には、ゼニツアという鉱山で働くことができたというのです。
そしてその働いているところが、ある日、鉱山主の眼に留まって、言葉もわからぬ異郷でいたいけな日本の子供が苦労しているのを哀れに思った鉱山主のお陰で、昼は働きながら夜は鉱山経営の夜学校へ通わせてもらうことができるようになったというのです。
が、案外成績がいいので教師たちから惜しがられて、今度はイドリアの中学校《ギムナジューム》へ……そこを終るとさらに高等学校《リッツエ》へと、いずれも思いのほかに成績がいいのに驚いて、鉱山主も本式に身を入れ出しました。そして高等学校《リッツエ》を終ると正式に学資を出してくれて、首都のベルグラードの大学《ユニヴァルステート》へ入れてくれました。もう働かなくても、勉強できる身の上になったのです。
専攻は、採鉱|冶金《やきん》学……もともとが、無理な生いたちをしているのですから、学校も年を取ってから出て、二十九の年にやっとベルグラード大学を卒業することができました。そして鉱山主の頼みで、その長女と結婚して鉱山主の事業を
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