てましたのよ……」
 湖畔に、朽ちて倒れた楢《なら》の大木があります。その幹に腰を降ろして、ジーナがいうのです。私も並んで腰をかけました。スパセニアが番人にいい付けて、水門を開いて水を落して見せるのだと、私たちを離れて遥《はる》かの小舎《こや》の方へ駈け去っていった時でした。
 この辺の地所もまたこの湖も、みんな父親のものだとジーナがいうのです。一体|貴方《あなた》のお父様という方は、どういう方なんです? 鉱山技師でありながら、こんなドエライ土地を持って、おまけにあんなすばらしい大工事をやりかけて、こんな湖までお買いになって……お母さんもおいでにならないで、……こんな淋《さび》しい山の中なぞに住んで……と堪《たま》らなくなって到頭私は、昨夜以来聞きたい聞きたいと思っていたことのすべてを、みんな一時に口へ出してしまいました。そしてその時初めて、ジーナから詳しい身の上を聞く機会を持ったのです。

      四

「父は、ほんとうにえらい人ですわ。娘の口から、そんなことをいっては、おかしいかも知れませんけれど……どんな苦しいことがあっても、決して愚痴はいいませんし……」
 と溜息《ためいき
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