も御料《ごりょう》牧場育ちの、四歳、五歳という乗馬用のアラブ種ばかりです。
 その立派な馬を見てから、爪先《つまさき》上がりの草原を海岸へ足を向けて、娘たちの家からいくつの丘を越え林を越え、野を越えて来た頃でしょうか? 風致のいい赤松の丘の中ほどで、呀《あ》っ! と思わず私は立ち停まりました。この山の中に……この山の中に! そしてそれは、なんという壮大さでしょう。
 広々とした深い地下を掘り返して、縦横に鉄柱が峙《そばだ》ち、鉄梁《ビーム》や鉄筋が打ち込まれて、地下工事が施されているのです。しかも雨に打たれ風に晒《さら》されて、鉄柱《ビーム》も鉄筋も赤く錆《さ》びて、掘り上げられた土が向うに、山をなしています。|荷揚げ機《デレッキ》やブルドーザーなぞも打《う》っ棄《ちゃ》られたまま、工事半ばの立ち腐れを見せているのです。
「ほう!」
 と、もう一度私は、驚嘆の叫びを上げました。もちろん今|眺《なが》めているものは、地下工事だけであって、それ以上のものではありません。が、しかし、この交通不便な山の中へ、これだけの資材を搬《はこ》んで、これだけの建設を進めるとは! この地下工事の費用だけで
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