って来ますの」
 ユーゴとはまだ、戦争中の断絶した国交のままになっているから、滅多に来ることもないけれど、それでも偶《たま》には向うで伊太利《イタリー》領のトリエステまでいって飛行機に積むとみえて、どうかした拍子には来ることもあるというような話なぞを、してくれたのです。
 寝るのにはまだ時間が早いし、父親は戻って来ませんし、食事の済んだつれづれに、しばらく二人と雑談していましたが、その時私は初めて、この辺一帯の土地が――昨日私が降りて来た周防山《すおうやま》のこっちから、海の方は遥《はる》かの断崖《だんがい》の下まで、そして北は四里先のその大野木という村の入り口まで、もちろん今父親のいっているという、そのマンガン鉱の山まで含めてこの広大な土地が、全部この家の物であるということを知ったのです。
「ほう! 大変なもんですね。それじゃ貴方のお家は、大金持じゃありませんか」
 と私は眼を円《まる》くしましたが、
「別段、お金持じゃありませんわ。……ただ地所が少しあるというだけですわ……」
 と姉娘のジーナは穏やかに、ほほえんでいるのです。何万エーカーとか、何十万エーカーとかいいましたけれど、そ
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