るもんだなと、思いました。
「怖《こわ》くないんですか?」
 とまた喉《のど》まで出かかって、私は呑み込んでしまいました。幾度聞いてみたからとて、そんなことは同じ返事だからです。優しい顔をしながら、肝《きも》の太いもんだなとつくづく舌を捲《ま》きましたが、娘二人は慣れ切ったもので、何の物|怯《お》じするところもなく、私に電蓄をかけて――父親が拵《こしら》えたとかいう、電気代りの回転装置をかけて、耳慣れぬユーゴの流行唄《はやりうた》の二つ三つを聞かせてくれたり、それが終るとまた三人で食卓を囲んで、湯気の出るスープや鶏《チキン》のソテーや、新鮮なアスパラガスやセロリーのサラダなぞ……。
「こんな不便なところで、食べ物は、どうするんですか?」
 と聞いてみましたら、別棟《べつむね》に住んでいる馬丁《べっとう》や農夫たちが、二日おき三日おきに馬で四里離れた大野木まで買い出しに行くというのです。麺麭《パン》は家で焼かせているし、野菜はこの向うに農場があって、そこでセロリーでもパセリでもアスパラガスでも作らせているから、ちっとも不自由しないということ。
「手紙もやっぱりいったついでに、郵便局から取
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