らお出かけになんか、なれやしませんわ。そんなところに立ってらっしゃらないで、こっちへいらっしゃい!」
 さっきの食堂にも蝋燭が点《とも》っていれば、その隣にも、また隣にも、間ごと間ごとに蝋燭が瞬《またた》いて、殊《こと》に暖炉のある居間には、壁にも蝋燭が点《つ》いていれば、卓子《テーブル》の上にも、丈《たけ》高い燭台に三本も点って、電気と違《たが》わぬ明るさです。闇《くらがり》で私の謝った娘は、姉の方だったのです。
 妹娘は安楽|椅子《いす》にからだを埋《うず》めて、明るい燭台の下で厚い洋書らしいものを、読んでいました。きまり悪げに頭を掻《か》いている私を見ると、
「よく眠ってらっしゃいましたわね」
 と笑いながら、顔をあげました。
「さっき、お起しして差上げようかって、……いいえ、灯《あかり》を点けに行く前に……ジーナに相談したら、よくおやすみになってらっしゃるんなら、お起ししない方がいいわっていってましたの。……わたし、戸を閉めに上がったの、御存知ないでしょう?」
 ジーナというのは、姉娘の名前でした。私は頭を掻《か》きながら、赧《あか》くなりました。
「ジーナが仕度してますから、
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