して私は跳ね起きました。いけん、ここは知り合いの家《うち》ではない! と、気が付いたのです。いつの間にか硝子《ガラス》戸も閉ざされたとみえて、模糊《もこ》と漂っている春の夕暮れの中に、さっきまでの明るい紺青《こんじょう》の海ももうまったくの、ドス黝《ぐろ》さに変っているのです。
もう間もなく、夜の帳《とばり》も降りるでしょう。暮れるに間のないこの夕暮れ眼がけて、この見知らぬ高原へ飛び出す勇気はありません。慌てて階下へ飛んで降りて、ちょうど勝手口から出て来た、姉か妹かわかりませんが出逢《であ》い頭《がしら》の娘に、私はペコペコと頭を下げて、眠り過ぎてしまった不覚を謝りました。
そして、暮れかかるところを眼がけて飛び出すのは、どうにもヤリキレヌから厚顔《あつかま》しい願いだけれど、もう一晩だけ泊めて欲しい、その代りさっきのような、あんな立派な部屋でなくても結構だから……納屋《なや》の隅でも、かまいませんからと、本音を出して頼んだのです。
「オホホホホホホホ」
と娘は面白そうに、笑い出しました。
「そんなに仰《おっ》しゃらなくても、いいんですのよ、……そうですとも、こんなに暗くなってか
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