るような、それでいて好奇心が胸一杯にはびこって、眼が冴《さ》えてくるような、何ともいえぬ妙な気持がしてくるのです。
 母親らしい人の姿は、ちっとも見当らぬけれど、なぜここの家には母親がいないのだろうか? そしてそれよりも、こんな人里離れた山沿いの淋《さび》しい海岸に、なぜこんな家だけが、ポツンと建っているのだろうか? 立派な父親と、綺麗《きれい》な娘たちだけが住んでいて……なぞと取り留めもないことを思いうかべているうちに、そよそよした風に誘われていつかグッスリと、眠り込んでしまいました。

      三

 やっぱりくたびれ切っていたのでしょう? ほんの一時間か二時間、微睡むつもりでいたのに、私が眼を醒《さ》ました時はもう夕方とみえて、天井には電気が、……さすがに電気はないとみえて、これも故国《くに》の習慣なのかも知れません、部屋の隅には金の燭台《しょくだい》に大きな西洋|蝋燭《ろうそく》が、二つも朦朧《もうろう》と照らしているのです。
 見知らぬ異国へでも、彷徨《さまよ》い込んだような気持がして、寝呆《ねぼ》け眼《まなこ》でぼんやりと、焔《ほのお》を瞶《みつ》めているうちに、ハッと
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