と眺望のいい部屋でした。
 部屋の真ん中には、真新しい敷布《シーツ》に掩《おお》われた大きな寝台《ベッド》が据えられて、高い天井や大きな家具、調度類……皺《しわ》くちゃになった襯衣《シャツ》のまま、横になるのが憚《はばか》られるような、豪華さでした。さて、そうして寝台に身を投げてはみましたが、その時の私の気持を、何といい現したらいいものでしょうか?
 子供の頃に読んだ千一夜物語《アラビヤン・ナイト》の中には、バグダッドの町を彷徨《さまよ》い歩いた荷担《にかつ》ぎの話なぞがよく出ています。夕暗《ゆうやみ》の立ちこめた町の小路で、ふと行き摺《ず》りの美女に呼び留められて、入り込んだ邸《やしき》の中が眼の醒《さ》めるような宮殿で、山海の珍味でもてなされたような物語が、よく出てきます。その時の私の気持が、ちょうどその荷担《にかつ》ぎだったといったら、いいでしょうか?
 今は午前中で、まだ黄昏《たそがれ》でもありませんし、またここがそれほどの宮殿とか、山海の珍味だとかいうのではありませんけれど、それでもなんだか狐《きつね》につままれたような、心地です。頭の芯《しん》がトロトロと微睡《まどろ》んで
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